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平成26年(行ケ)第10176号
高透明性非金属カソード事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 燐光発光を示す金属錯体において,金属イオンを別のものに変えても,同様な燐光発光特性を有するとの技術常識は確立されていなかったのであるから,燐光材料の構造を特定しない本件発明は,明細書に記載された範囲を超えているとされた。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10176号(知財高裁 H27.10.08 判決言渡)
 事件の種類(判決):無効審決取消請求事件(請求棄却)
 原告/被告:ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ,ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア/株式会社半導体エネルギー研究所
 キーワード:サポート要件,燐光放射線
 関連条文:特許法36条6項1号

○事案の概要

 本件発明は,「有機発光デバイス」に係る発明であり,該有機発光デバイスの「発光層が,電荷キャリアーホスト材料と,前記電荷キャリアーホスト材料のドーパントとして用いられる燐光材料とからなり,前記有機発光デバイスに電圧を印加すると,前記電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーが前記燐光材料の三重項分子励起状態に移行することができ,且つ前記燐光材料の前記三重項分子励起状態から燐光放射線を室温において発光する」ことを発明特定事項としている。
 審決は,本件発明には,燐光材料の構造に関わらず,「電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーが前記燐光材料の三重項分子励起状態に移行することができ,且つ前記燐光材料の前記三重項分子励起状態から燐光放射線を室温において発光する有機発光デバイス」は,全て包含されるところ,励起子三重項状態から燐光放射線を発光する有機電界発光材料として見いだされたのは,上述の【化44】~【化47】(【化45】のM1は白金である。)のみであるから,燐光材料として,具体的な材料が何ら限定されていない本件発明は,発明の詳細な説明の記載の範囲を超えていると判断した。

○知財高裁の判断

 本件明細書の記載によれば,本件明細書には,ホスト材料(Alq)における非放射性励起子三重項状態から,ドーパントである燐光発光分子(PtOEP)の励起子三重項状態へとエネルギーが移行し,又は移行する可能性があり,燐光発光分子(PtOEP)の励起子三重項状態から燐光放射線を発光することが記載されているということができる。
 本件明細書には,一般式【化45】が記載されているが,この【化45】については,【0175】に,式中の各構成元素等については,「…の化学構造を有する燐光化合物から選択される。」と,【0177】に,「燐光寿命に従って燐光化合物を選択することに加えて」と,それぞれ記載されていることからすれば,一般式である【化45】の構造を有する燐光化合物を用いた有機発光デバイスは,その全てについて,燐光消滅速度が表示デバイスで用いるのに適切になるほど十分速いとはいえず,本件発明の課題を解決するためには,一般式である【化45】の構造を有する燐光化合物の中から,燐光消滅速度が適切となるものを選択する必要があることが理解できる。
 そして,前記(4)のとおり,金属錯体は配位子と金属イオンの具体的な組合せにより燐光発光するか否かが左右されることが知られていたことを考慮すると,前記イにおいて本件発明の課題を解決できると認識されるPtOEPと同じ金属イオンを有し,ポルフィリン骨格を配位子とする金属錯体である,一般式【化45】においてM=Ptである燐光化合物を,ドーパントとして用いた有機発光デバイスは,PtOEPと同様な燐光特性を示し,燐光消滅速度が表示デバイスで用いるのに適切になるほど十分速く,本件発明の課題が解決できるものと認識することができる。
 しかし,前記(4)のとおり,ある金属錯体を用いた燐光発光を示す有機発光デバイスにおいて,金属イオンを別のものに変えても,同様な燐光発光特性を有する有機発光デバイスが得られるとの技術常識は確立されていなかったことを考慮すると,一般式【化45】において,「Mは,二価,三価,又は四価の金属」のうちどのような金属を選択すれば,ホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーを励起子三重項状態のエネルギーに移行させ,励起子三重項状態から燐光放射線を発光し,かつ,燐光消滅速度が表示デバイスで用いるのに適切になるほど十分速くなるのか,当業者にとって自明であるということはできない。
 上記のとおり,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるのは,【化43】,【化44】の構造を有するPtOEP,一般式【化45】においてM=Ptである燐光化合物,【化46】又は【化47】の構造を有する燐光化合物をドーパントとして用いた有機発光デバイスであると認められる。したがって,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先権主張日当時の技術常識に照らして,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないというほかない。

(参考) 【化45】

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