被告らが行った乙3発明の追試において,結晶化の過程における塩化カルシウム水溶液の滴下時間を変更した際にも同一とみられる結晶が得られたこと,水分量は基礎的な検討事項であることから,当該追試は適切であり,この結果により本件結晶発明1は乙3公報に記載されているとされた。
事件番号等:平成26年(ワ)第688号(知財高裁 H27.07.31 判決言渡)
事件の種類(判決):特許権侵害差止等請求事件(請求棄却)
原告/被告:日産化学工業株式会社/相模化成工業株式会社,日医工株式会社,壽製薬株式会社
キーワード:追試,技術常識に従った条件の選択
関連条文:特許法29条1項3号及び2項
本件結晶発明1は,式(1)
【化1】
で表される化合物であり,7~13%の水分を含むピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)に係る発明であり,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,所定の15の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有するという構成要件を備えている。被告らは,本件結晶発明は,乙3公報に記載された実験の追試の結果に基いて,乙3公報に記載された発明と同一又はこれから当業者が容易に想到できたものであると主張した。
被告らは,乙3公報の段落【0136】に記載された実験を,アクティブファーマ株式会社研究部が追試した結果を記載したものとして,乙6報告書を提出したが,そこに記載された乙6追試では,3回の追試が行われているところ・・・(相違点a,bに係る構成が確認された。)・・・。
そうすると,乙6追試が,本件結晶特許の出願時の技術常識に従ったものであれば,本件結晶発明1は乙3公報に記載されているに等しいということができる。
乙6追試では,・・・して白色結晶性粉末を得るという方法がとられた。塩化カルシウム水溶液の滴下時間を3分として2度,36分として1度の実験が行われ,乙3公報の段落【0136】に明確な記載がされていない温度及び圧力条件は,第16改正日本薬局方通則に則って実施された〔乙6〕。
① 滴下時間について
・・・乙6追試において,滴下時間を3分又は36分としたことは,当該分野の技術常識からみて,不自然に長時間又は短時間であるとは考えられず,適切というべきである。また,乙6追試において,滴下時間を3分とした場合と36分とした場合のいずれにおいても,同一とみられる結晶が得られていることから,滴下時間が3分であるか36分であるかは,得られる結晶形に影響を与えないものであるといえ,当該事実も,乙6追試で採用された滴下時間が適切であったことを裏付けるというべきである。
② 乾燥条件について
「医薬品の多形現象と晶析の化学」(芦澤一英編著,平成14年9月20日発行。甲49の1:435頁)に,・・・と記載されていることからすると,結晶化実験において,水分量は基礎的な検討事項であると認められる。そうすると,乙3公報の段落【0136】に乾燥後の結晶の水分量が10.6%である旨記載されている以上,乙3発明を追試しようとする当業者が,結晶が水和物結晶である可能性をも考慮しつつ,生成物の水分量をモニタリングして,温度や時間を調節し,水分量が10.6%になるように乾燥させることは,当業者が通常行う試行錯誤の範囲の行為と認められる。
そうすると,乙6追試は,乙3発明を,技術常識を参酌して追試した結果を示していると認めるのが相当である。
以上によれば,本件結晶発明1は,乙3公報に記載されているに等しい事項というべきであるから,特許法29条1項3号により,特許を受けることができない。