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判例情報


平成26年(行ケ)第10203号
ハイブリッド混合プラナーヘテロ接合を用いた高効率有機光電池事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 本願発明の光活性層の層厚は最適化条件の決定にすぎない上,本願発明は小分子有機アクセプター材料と小分子有機ドナー材料の具体的な形成材料の限定がないから,実施例と同等の効果を奏することの裏付けがないとして,本願発明の効果の顕著性は認められないとされた。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10203号(知財高裁 H27.05.14 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶審決取消請求事件(請求棄却)
 原告/被告:ザ,トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ/特許庁長官
 キーワード:最適化条件の決定.効果の顕著性
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本願発明は,第1電極,第2電極及び第1電極と第2電極の間に挟まれた光活性領域とを有する光電流を生成する装置に係り,光活性領域について,フォトンを吸収することによりエキシトンを生成する第1光活性有機層であって,小分子有機アクセプター材料と小分子有機ドナー材料の混合を備え,0.8特徴的電荷輸送長以下の層厚を有する第1光活性有機層と;フォトンを吸収することによりエキシトンを生成する第2光活性有機層であって,0.1光吸収長以上の層厚を有する第2光活性有機層と;を備えることを発明特定事項としている。審決は,本願発明と引用発明の相違点を,上記で特定された第1光活性有機層及び第2光活性有機層の層厚であると認定した上で,本願発明は進歩性を有しないと判断した。知財高裁は,本件訴訟において,審決の一致点・相違点の認定には,誤りはないとした上で,以下の理由で審決を維持する判断をした。

○知財高裁の判断

〈第1光活性有機層の層厚について〉
 引用文献には,前記1(2)アのとおり,「Re-DIAN:C60」層の厚さを50nmにすることが記載されているほか,上記ア(ア)のとおり,デバイスの各層の厚さを最適化すれば性能の向上も達成可能である旨の記載がある。
 そして,学会誌の技術解説記事である乙3には,電子供与体と電子受容性の有機分子を均一に混合した薄膜,すなわち,混合層を異種電極で挟んだ構造のバルクヘテロ接合型の有機薄膜太陽電池において,励起子の拡散長に従い,混合層の膜厚を一定以上にはできないとの記載があり,また,この記載は,ドナー材料,アクセプター材料として具体的にどのような材料を用いた場合のものであるかを特定するものではないから,この乙3に示されるとおり,混合層の膜厚に励起子の拡散長に依存する上限値が存することは,当業者にとっての周知の事項であったものと認められる。
 以上によれば,混合層である第1光活性層(「Re-DIAN:C60」)の厚さの上限値を,光吸収率の向上と励起子の再結合回避の観点から,励起子の拡散長に相当する特徴的電荷輸送長を指標として決することは,当業者が適宜に行う最適化条件の決定にすぎないといえる。
〈第2光活性有機層の層厚について〉
 引用文献には,上記(ア)のとおり,「C60」の厚さを10nmにすることが記載されているところ,本願発明にいう「光吸収長」は,本願明細書によれば,「C60」においては,450nmの波長に対して1000Åとされているから(【0027】),0.1光吸収長は,100Å(10nm)であり,引用文献に記載された「C60」の層厚は,「0.1光吸収長」となっている。他方,本願明細書には,「C60」の層厚を「0.1光吸収長」以上としたことによる特有の効果は記載されていない。
 以上によれば,非混合層である第2光活性有機層(「C60」)の層厚を,光吸収の増大の観点から「0.1光吸収長」以上とすることは,格別の困難を要せず,当業者が適宜に行う最適化条件の決定にすぎないと認められる。
〈発明の作用効果について〉
 原告が,高い効率であると主張する太陽電池は,本願明細書に実施例として記載された「インジウム錫酸化物/150ÅCuPc/100ÅCuPc:C60(1:1重量比)/350ÅC60/100Å バンクロプイン/1000ÅAg」という構造のものである(【0040】【0056】【0068】)。
 しかしながら,本願発明では,第1光活性有機層を小分子有機アクセプター材料と小分子有機ドナー材料との混合層とし,第2光活性有機層を第1光活性層有機層の小分子アクセプター材料の非混合層で形成されるとの限定がされているのみであり,小分子有機アクセプター材料と小分子有機ドナー材料の具体的な形成材料までは限定されていない。したがって,任意の小分子有機アクセプター材料や小分子有機ドナー材料で装置を形成しても,本願発明の層厚を採用することのみによって,上記実施例の構造と同等の効率ηPを達成できることを裏付ける根拠は何ら開示されておらず,このことを裏付ける技術常識があるともいえない。
 したがって,本願発明に当業者の予測可能な域を超える効果があるとはいえないとした審決の判断には,誤りはない。

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