知的財産情報

ホーム > 知的財産情報 > 判例紹介 > 燐光性錯体を含む有機発光デバイスの発光層用組成物事件

判例情報


平成25年(行ケ)第10140号
燐光性錯体を含む有機発光デバイスの発光層用組成物事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 甲4には,強力な「fluorescence」を示すことが記載されているものの,具体的なフォトルミネセンス効率及び発光寿命については何らの記載もないから,甲4記載のLMXを,甲1発明のELデバイスの発光層として用いる燐光発光有機金属化合物に採用する動機付けがないとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10140号(知財高裁 H27.03.26 判決言渡)
 事件の種類(判決):特許維持審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:株式会社社半導体エネルギー研究所
    /ザ,トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
      ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
 キーワード:容易想到,周知技術
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 原告は,被告らの保有する「有機LED用燐光性ドーパントとしての式LMXの錯体」に係る特許(本件特許)について無効審判を請求し,特許庁は本件特許を無効とする旨の審決(第一次審決)をした。被告らは知財高裁に第一次審決の取消しを求めて訴えを提起し,同裁判所は第一次審決を取消す旨の判決を言い渡した。
 特許庁は,再開された審判において,本件審判の請求は成り立たない旨の審決(特許維持審決)をしたので,原告は本件審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
 本件特許の請求項1の発明は,以下のとおりの,燐光性錯体を含む,有機発光デバイスの発光層として用いるための組成物である。
 「請求項1 式LMX(式中,L及びXは,異なったモノアニオン性二座配位子であり,MはIrであり,さらに前記L配位子はsp2混成炭素及び窒素原子を介してMに配位し;前記X配位子がO-O配位子又はN-O配位子である。)の燐光性錯体を含む,有機発光デバイスの発光層として用いるための組成物(但し,LMX中,Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである組成物を除く。)。」
 原告は,①甲4記載のLMXの式で表されるIr錯体は燐光発光するものであることは当業者が容易に理解することであるとともに,②燐光PLを示す材料を有機ELデバイスの発光層として用いる燐光発光有機金属化合物に適用することは,甲1や甲5その他の文献に動機付けがあり,甲1と甲4を組み合わせることは極めて容易であるなどとして,本件審決は,容易想到性の判断を誤っており,取り消されるべきであると主張した。

○知財高裁の判断

ア 前記(2)のとおり,甲4記載の……「fluorescence」が燐光であることを当業者が容易に理解したということはできないから,甲1発明のELデバイスにおいて燐光発光するIr(ppy)に代えて,甲4記載のLMXの式で表される錯体16-21を用いることは,当業者が容易に想到し得たということはできない。

イ 仮に,……当業者が,甲4記載の錯体16-21が示す「fluorescence」は燐光であると理解することができたとしても,以下のとおり,甲1発明に甲4記載の錯体16-21を組み合わせることが容易に想到できたということはできない。
 すなわち,……甲4記載の発明と,ELデバイスに係る甲1発明とは,適用する対象の技術分野が異なるものであるから,甲1発明と甲4記載の錯体16-21を組み合わせる積極的な動機付けがあるということはできない。
 また,……光励起により燐光発光する物質であれば,その具体的な構造,PL効率等の発光特性いかんにかかわらず,直ちにELデバイスの発光層として用いる燐光発光有機金属化合物に適用して,電気励起により燐光発光させることができるとの技術常識があったということはできず,光励起により燐光発光する物質の中からPL効率が高い物質を見出し,さらに,その物質のELデバイス作製における適合性を調べる必要があった。
 そして,……甲4には,室温において紫外線励起により強力な「fluorescence」を示すことが記載されているものの,具体的なフォトルミネセンス効率(PL効率)及び発光寿命については何らの記載もないから,甲4記載のLMXの式で表される錯体16-21を,甲1発明のIr(ppy)に代えて採用するための手がかりとなる物性が不明というほかない。
 確かに,甲1発明のLMの式で表されるIr(ppy)と,甲4記載のLMXの式で表される錯体16-21とは,Ir(ppy)という部分構造を有すること及び発光波長が緑色であること等においては共通するものの,甲4記載のLMXの式で表される錯体16-21のN-O配位子が,発光特性にどのような影響を及ぼすかについては,本件優先日当時において何らかの知見があったことを認めるに足りる証拠が全くない以上,上記部分構造と発光波長の共通性等に基づいて,甲1発明のLMの式で表されるIr(ppy)を,甲4記載のLMXの式で表される錯体16-21により置換することが可能であることを当業者が容易に想到することができたとまでいうことはできない。……。

© 2017 SAKURA PATENT OFFICE. All Rights Reserved. 特許業務法人 サクラ国際特許事務所
〒101-0047 東京都千代田区内神田1丁目18-14 ヨシザワビル6階
Tel. 03-5577-3066(代)/Fax. 03-5577-3067
国内および外国特許・意匠・商標の出願代理、鑑定、相談、訴訟|特許業務法人 サクラ国際特許事務所