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平成24年 (行ケ) 第10200号
ディスプレイフィルタ用外光遮蔽層事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

 請求項の「黒色の金属」について,その意義は,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解され,その意義は明確であるといえるとされた。

  事件番号等:平成24年(行ケ)第10200号(知財高裁 H25.02.27 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求
 原告/被告:サムスンコーニング精密素材/特許庁長官
 キーワード:サポート要件,実施可能要件・明確性要件

○事案の概要

 本願発明は,外光遮断層と,これを含むディスプレイフィルタおよびディスプレイ装置に関する発明であり,遮光パターンに「黒色の金属」を含むことを構成要件の一つとしている。審決の理由は,①本願発明の「黒色の金属」について定義がされておらず,具体的な物質・部材等を特定するための説明もないから,色彩として黒く見える(黒色の)金属,例えば,鉄・コバルト・ニッケル・クロム等の黒色の光沢を持つ金属も含まれることとなり,技術的外縁が不明で,その意義が明確であるとはいえない,②本願明細書の発明の詳細な説明には,表面が黒く処理された金属を金属粉末として樹脂に添加した後も,「黒色の金属」という物理的性質を保持するための具体的手段が開示されておらず,自明ともいえないから,本願明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない,というものである。

○知財高裁の判断

①について
 本願特許請求の範囲及び明細書の記載によれば,本願発明は,PDP装置において,…輝度,視野角及び明室条件におけるコントラスト比を向上させることができる外光遮断層を提供することを目的とし,…金属粉末は,黒色の金属であると特定されている。そうすると,本願発明に係る特許請求の範囲の「前記金属粉末は,黒色の金属である」との記載は,その文言どおり,樹脂に添加される金属粉末の色が黒色であることを意味するものと理解することができる。
 また,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると,…本願発明における金属粉末の「黒色」とは,外部環境光の吸収が可能な程度の黒色であると理解することができる。
 さらに,金属の酸化物に黒色のものが存在することは当業者に広く知られた事項であり,金属粉末として黒色のものが存在することも技術常識といえるから,当業者は,黒色の金属粉末が具体的にどのようなものであるかを理解することができるものと認められる。
 したがって,本願発明に係る特許請求の範囲の「前記金属粉末は,黒色の金属である」との記載の意味は明確といえる。

②について
 本願発明は,特許請求の範囲において,…本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される。そして,…当業者は,黒色の金属粉末が具体的にどのようなものであるか理解することができるものと認められる。そうすると,「金属粉末の表面が黒く処理された」金属について実施可能要件を満たすか否かにかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「黒色の金属」については,特許法36条4項1号に違反しないものと認められる。


(玉腰 紀子)

○コメント

 本件では特許請求の範囲の「前記金属粉末は,黒色の金属である」が,「金属の属性として黒色である金属からなる金属粉末」を指すのか,「黒色の金属粉末」を指すのかが問題になった。
 これに対して裁判所は,「黒色の金属」は,明細書に例示された「表面が黒く処理された」金属と「黒色の金属」のうち,「黒色の金属」に特定したものと解される,金属粉末として黒色のものが存在することは,技術常識というべきである,として,審決を取消している。
 本願の明細書には,「黒色の金属」として,「金属粉末の表面が黒く処理された」金属も例示されており,被告側は,この場合の「実施可能要件」の不備も主張したが,裁判所は,この点について,「原告の主張には,特許請求の範囲及び本願明細書の発明の詳細な説明の記載と整合しないような部分もあるが,そうであるからといって,審決の明確性要件の判断を是認することはできない。」として,被告の主張を退けている。
 一般に,「黒色」のような感覚的,主観的な用語は,見方によってその包含する輪郭が変わりやすく,争いのもととなることが多い。
 このような問題を避けるには,物理的なパラメータなどによって「黒色」の範囲を明確に定義した請求項を別に作っておくことが望ましい。


(須山 佐一)

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