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平成26年(行ケ)第10104号
熱移動組成物事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 引用例2~4等には,HFOとその構造に共通する点のあるHFC系の冷媒がPOEと良好な相溶性を示すこと,化学的安定性があることが記載されていることからすれば,HFO-1234zeとPOEの組合せがこれらと同程度の相溶性,化学的安定性を示す可能性がそれなりに高いことを,当業者が予測し得るとされた。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10104号(知財高裁 H27.01.28 判決言渡)
 事件の種類(判決):訂正棄却審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:ハネウエル・インターナショナル・インコーポレーテッド/特許庁長官
 キーワード:冷媒,HFO,HFC,潤滑剤,相溶性,化学的安定性,進歩性
 関連条文:特許法29条2項,126条5項

○事案の概要

 本件訂正後の請求項1の記載は次のとおりである(本件発明1)。
「【請求項1】化学式(ⅠⅠ)(式中,各々のRは独立にF,またはHであり,R’は(CRYであり,YはCFであり,nは0であり,かつ,不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり,残るRのうち少なくとも1つはFである)の少なくとも1つの化合物と,ポリオールエステルの潤滑剤とを含む蒸気圧縮システム用の熱移動組成物であって,前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が,1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)である,熱移動組成物。
 化学式(Ⅱ):

 審決は,本件発明1と引用発明の相違点を,「潤滑剤」につき,本件発明1では,「ポリオールエステルの潤滑剤」であるのに対し,引用発明においては「ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油」である点,と認定し,本件発明1の引用発明に基く進歩性欠如の独立特許要件違反を理由に,本件訂正は126条5項に規定された要件を満たさないと判断した。

○知財高裁の判断

・・・引用例1には,Cの化合物からなる熱媒体であって,該有機化合物はHFO-1234zeに代表されるものである熱媒体と,潤滑油とからなる,ヒートポンプ熱伝達用組成物(引用発明)が開示されていると認められるものの,具体的な潤滑剤の種類については開示されていないから,引用例1に接した当業者としては,かかる冷媒化合物と組み合わせるべき潤滑剤としていずれの潤滑剤を選択すべきなのかを,上記の考慮要素を踏まえて検討することとなると考えられる。
 引用例3及び4の記載によれば,・・HFC系の冷媒と相溶性があり組み合わせることができる潤滑剤として,PAG,エステル油(POE),PFEなどの使用が検討されていたこと,その結果,HFC系冷媒とPOEとの相溶性については,HFC-143aとは相溶性はなく,HFC-32とは,・・・の間では混合比にかかわらず相溶性があること,HFC-134aとは,・・・間では混合比にかかわらず相溶性があること,さらに,HFC-125及びHFC-152aとは,・・・の間で相溶性があることなどの点が明らかになっていたことが認められる。
 以上に加え,・・・本件優先日の当時,POEは,HFC系の冷媒に関しては,具体的な化合物によっては例外はあるものの,これと一般的には相溶性を有する潤滑剤として使用可能であることが,当業者において認識されていたということができる。
 そして,HFOは,・・・HFCとはその構造が異なるものの,水素,フッ素,炭素からなり,塩素を含まない化合物である点でHFCと共通する化合物であること,引用例2には,HFOに属する点で引用発明の冷媒化合物と共通する化合物であるHFO-1336を冷媒に用いる発明が開示され,・・・この冷媒がPOEと良好な相溶性を有することが記載されていることからすれば,当業者が,引用発明に係るHFO系の冷媒化合物であるHFO-1234zeと組み合わせるべき潤滑剤として,上記のようなPOEとの相溶性を示すHFC系の冷媒やHFO-1336との間で認められた相溶性と同程度の相溶性を示す可能性がそれなりに高いことを予測し,POEを選択することは,特段の創意工夫を要することなく行うことができるといえる。
 (引用例1,2,4の記載を踏まえると)当業者において,本件発明1に係る冷媒化合物と潤滑剤の組合せがある程度の化学的安定性を有することは,十分に予想することができることである。したがって,本件明細書にHFO-1234zeとPAGとを組み合わせた場合の化学的安定性についてのシールドチューブ試験の結果が記載され,HFO-1234zeとPOEとの組合せについても,かかる試験結果と同程度の化学的安定性があると考えられるとしても,そのことは当業者が予想することができたものであり,また,その化学的安定性の程度が予想を超える程に格別顕著なものであることを認めるに足りる証拠もない。

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