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平成25年(行ケ)第10285号
イバンドロネートの結晶多角事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

調整方法や熱重量分析の結果を検討しただけでは「一水和物」であると認めることはできないとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10285号(知財高裁 H27.01.22 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:エフ・ホフマン-ラロシュ アーゲー/特許庁長官
 キーワード:先願発明との異同,結晶多形,一水和物,X線粉末回折パターン
 関連条文:特許法29条の2

○事案の概要

 本願発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の発明である。
「【請求項1】角度2θで示す特性ピークを 角度2θ±0.2°,10.2°,11.5°,15.7°,19.4°,26.3°に有する,CuKα放射線を用いて得られたX線粉末回折パターンを特徴とする,3-(N-メチル-N-ペンチル)アミノ-1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホン酸一ナトリウム塩一水和物(イバンドロネート)の結晶多形。」
 本件審決は,本願発明と,本願の優先日前の優先日に係る先願発明との相違点を,特性ピークを示す角度2θ±0.2°として,本願発明では,「10.2°」及び「11.5°」も特定されているのに対し,先願発明では,「10.2°」及び「11.5°」が特定されていない点,と認定した上で,これらの相違点は実質的な相違点ではなく,本願発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができない,ものと判断した。

○知財高裁の判断

 知財高裁は,以下のとおり,先願発明の結晶は,一水和物とはいえず,かつその特性ピークを示す角度2θ±0.2°として「10.2°」及び「11.5°」が含まれていない,として,拒絶審決を取り消した。

(1) 「一水和物」について
 (先願明細書には,フォームTについて,・・・が記載されている。)このように,結晶化を水とアセトンの混合溶媒で行っていることからすれば,結晶フォームTには何らかの形で水分子が含まれており,熱重量分析(TGA)による重量損失は水の蒸発によるものである可能性が高いと考えられる。
 ところで,証拠(乙1~3)によれば,一般に,医薬化合物等の結晶に含まれる水は水和物を形成する結晶水と結晶表面に付着する付着水とに大別されるところ,医薬化合物等の結晶のTGAにおいて,付着水による重量減少はTGA測定の昇温開始と同時に生じ始め,緩慢と進行する場合が多く,重量減少量も湿度等に影響を受けるが,結晶水による重量減少は,一定の決まった温度範囲で生じ,その量は湿度等の影響を受けず,化合物の分子量に対し一定の比となること,当該医薬品化合物等の結晶についてDSC測定(中略)を行うと,付着水の場合には吸熱ピークが観測されないのに対し,結晶水の場合には,結晶から水が離脱する際の熱的変化のピークが観測される場合があることから,熱分析で付着水か結晶水かの推定を行うことが可能とされていることが認められる。
 そうすると,先願発明において,フォームTのTGAによる重量損失に関わった水が,付着水か結晶水のいずれであるかは,非等温的TG曲線の解析やDSC測定の解析をするなどして,重量減少と温度の関係を観察しなくては推定することができない。・・・
 以上によれば,本件審決が,先願発明であるフォームTを一水和物と認定したことには誤りがあるというほかない。

(2) 「特性ピーク」について
 本願明細書には「特性ピーク」という用語について特段の説明や定義はないが,「特性」の通常の用語例からすれば,「その結晶を特徴づける特有のピーク」と解するのが相当であり,先願明細書において「特徴づけられる」として挙げられ,図21からも看取できる上記10個のピークも,これと同様の意味で用いられているものと解される。・・・
 また,先願明細書中でフォームTが「特徴づけられる」ピークであるとして挙げられている10個のピークは,いずれも,図21において相応の強度を有し,明確に把握できるものである。これに対して,図21において,本件審決が特性ピークとして挙げた2θが10.2±0.2°及び11.5±0.2°の位置には,たとえピークが把握できるとしても極めて強度の低い不明瞭なものしかなく,ことさらこれらを「特性ピーク」として取り上げるべきものではない。
 したがって,本件審決が,先願発明は,特性ピークを示す角度2θ±0.2°として「10.2°」及び「11.5°」も含むものであり,本願発明と先願発明とのしたことには誤りがあるというべきである。
 被告は,この点について,本願において「特性ピーク」とは発明を定義するために出願人が選んだピークという意味しかないのだから,先願明細書の図21において角度2θ±0.2°が10.2°,11.5°の位置にピークが存在する以上,先願発明と本願発明との間に実質的な相違はない旨主張する。
 しかし,本願発明の特許請求の範囲の請求項1において,単なる「ピーク」ではなく,「特性ピーク」として特定されている以上,前記のとおり,「その結晶を特徴づける特有のピーク」と解するのが相当である。・・・少なくとも,明確なピークを見出すことのできない部分にあえて着目して,先願明細書においても指摘されていない10.2±0.2°及び11.5±0.2°の位置にフォームTの特性ピークがあるということはできない。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。

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