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平成26年(行ケ)第10079号
窒化ガリウム系発光素子事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 引用発明から容易に想到し得たものを基準にして,更に甲2記載の技術を適用することが容易であるということは,いわゆる「容易の容易」の場合に相当するとして,本件特許の進歩性を認めた審決が維持された。

 事件番号等:平成26年(行ケ)第10079号(知財高裁 H26.11.26 判決言渡)
 事件の種類:特許維持審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:三洋電機株式会社/日亜化学工業株式会社
 キーワード:容易の容易,動機付け,レーザダイオード,保護膜
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本件は,無効審判の特許を無効とする審決(第1次審決)に対する審決取消訴訟で請求が棄却され,再開された審判で特許維持審決(第2次審決)を受けた無効審判の請求人が,第2次審決の取消しを求めて提起した裁判である。
 本件特許の請求項1に係る発明は,光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化ガリウム系発光素子において,「光出射側鏡面には,窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が,該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され,該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が,ZrO,MgO,Al,Si,AlN及びMgFから選ばれたいずれか1種から成り,光反射側鏡面には,ZrO,MgO,Si,AlN及びMgFから選ばれたいずれか1種からなる単一層の保護膜が接して形成」された特徴的な構成を備えており,この構成の引用発明からの容易想到性が争点の1つとなった。

○知財高裁の判断

ア ……甲2発明は,上記の課題を解決するためになされたものであり,その目的とするところは,大気雰囲気中で高出力動作を行っても端面劣化が生じにくい信頼性の高い半導体レーザ素子を提供することにある。
 そのため,甲2発明の半導体レーザ素子は,一対の対向する共振器端面のうち少なくとも一方の共振器端面が,該共振器端面上に形成されたAlN等からなる放熱用誘電体膜と,該放熱用誘電体膜上に形成されたAl等からなるパッシベーション膜とを備えており,該放熱用誘電体膜は,該パッシベーション膜の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し,該パッシベーション膜は,該放熱用誘電体膜よりも高い耐水性を有しているところ,このような構造を採用することにより,上記の目的が達成される。

イ 以上を前提として検討する。
 まず,甲1の一般式の中から,AlNを選択することを想到した上で,AlNを保護膜として使用した場合に,大気雰囲気中の水分と反応することにより,分解し,変質するとの課題があることに着目し,更にそれを解決するための構成としてAlにより構成されるパッシベーション膜を採用するというのは,引用発明から容易に想到し得たものを基準にして,更に甲2記載の技術を適用することが容易であるという,いわゆる「容易の容易」の場合に相当する。そうすると,引用発明に基づいて,相違点2及び3に係る構成に想到することは,格別な努力が必要であり,当業者にとって容易であるとはいえない(加えて,AlNを保護膜として使用する場合に上記の課題があることは,甲1の記載からは明らかでないところ,仮に,そのような課題が自明の課題であると解した場合には,そのような課題があるにもかかわらず甲1の一般式からあえてAlNを選択すること自体が,容易でないことに帰着する。)。

ウ なお,原告の審判段階における主張には,甲1に甲2発明を組み合わせることにより,甲2のAlNを保護膜として選択することが容易である旨主張したと窺われる記載があることから,引用発明に甲2を組み合わせてAlNを選択し,これと同時にパッシベーション膜として甲2の実施例であるAlを選択することにより,相違点2及び3に係る構成に至るとの点についても検討する。
(ア) 甲1は,窒化物半導体レーザ装置に関し,レーザダイオードの両端面における劣化を防ぎ,従来のよりも寿命が長い高信頼性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することを技術課題とするものである。
 一方,甲2発明は,半導体レーザ素子に関するものではあるが,前提となっている半導体材料の材質は,AlGaAs系,InGaAlP系,InGaAsP系である。
 そして,甲1には,保護層を「AlNを含むAl1-x-y-zGaInN(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層」とすることによって,保護層と窒化物半導体レーザダイオードが格子整合し,両者の熱膨張係数も整合するとの課題解決原理が記載されているところ,この一般式では,いかなる数字を代入しても,必ず「N」が組成に含まれることになり,「窒化物半導体レーザ装置」における活性層に常に「N」が含まれていることに照らすと,窒化物系の結晶についての格子整合が考慮に入れられたものと推測できる。そうすると,窒化物系レーザ装置に関する引用発明に,甲2における「N」を活性層に含まない半導体素子の端面に用いられる保護層を採用することが,容易に想到されるとはいい難い。
 したがって,甲1における保護層として,直ちに甲2の保護膜を適用するとの動機付けがあるとは認められない。

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