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平成25年 (行ケ) 第10236号
窒化物半導体発光素子事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

 発明の一部の構成を除外して発明を認定した審決の認定は,当該構成を「特徴的構成」から除外した点においても誤りであるとして,審決が取り消された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10236号(知財高裁 H26.09.24 判決言渡)
 事件の種類:無効審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:日亜化学工業株式会社/エバーライト・エレクトロニクス・カンパニー・リミテッド
 キーワード:実施可能要件,特徴的構成,発明の認定
 関連条文:特許法36条4項

○事案の概要

 訂正後の本件発明は「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInGa1-xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlGa1-yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlGa1-aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子。」である。
 審決は,本件明細書に示された単一量子井戸構造の活性層の厚さ,つまり井戸層の厚さと,発光素子の発光ピーク波長との関係を示す記載は,本件発明1に当てはまるものではなく,本件発明1の「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない,と判断した。

○知財高裁の判断

(1)本件審決は,本件発明1の要旨を,その発明特定事項から「n型窒化物半導体層に接してAlGa1-aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点を除外した構成,すなわち,「活性層の第1の面に接してInGa1-xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlGa1-yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子」と認定し,これを前提に本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充たすものであるか否かを判断しているといえる。
 本件審決は,・・・形式的には,本件発明1の要旨を本件訂正後の請求項1の記載に従って記載した上で,その「特徴的構成」が「活性層の第1の面にn型InGaN層が接し,該活性層の第2の面にp型AlGaN層が接し,該活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する窒化物半導体発光素子」であるとして,当該構成について,実施可能要件を判断している。

(2)本件発明1では,・・・第1のn型クラッド層5が,活性層とAlを含む第2のn型クラッド層4の間のバッファ層として作用し,活性層を薄くしても活性層6,第2のn型クラッド層4にクラックが入りにくいと推察され,活性層の膜厚が薄い状態においても活性層の結晶性が良くなるので,発光出力が増大するとされていることからすれば,本件発明1が「n型窒化物半導体層に接してAlGa1-aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点は,その発明の特徴を構成するものであるというべきであり,これを「特徴的構成」から除外する点においても,本件審決の上記認定は誤りであるといわざるを得ない。

(3)活性層を構成する窒化物半導体の「本来のバンドギャップエネルギー」とは,「引っ張り応力の影響を受けない状態の活性層(活性層を構成する窒化物半導体)が有するバンドギャップエネルギー」を意味するものと解されることからすれば,活性層(活性層を構成する窒化物半導体)の「本来のバンドギャップエネルギー」は,【図2】(単一量子井戸構造の活性層の厚さと発光素子の発光ピーク波長との関係を示すグラフ図)において,活性層の厚さが厚い領域における発光ピーク波長に相当するものであるといえる。
 本件明細書の発明の詳細な説明における実施例4には,本件発明1と同一の積層構造を有するLED素子の製造方法が記載されており,かつ,このLED素子の発光ピーク波長(425nm)は,活性層を形成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーに相当する発光ピーク波長(380nm程度)よりも長いこと,すなわち,このLED素子が,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することが記載されているといえる。
 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,物の発明(特許法2条3項1号)である本件発明1について,当業者がこれを生産することができ,かつ使用することができる程度に明確かつ十分に記載されているというべきである。

(玉腰 紀子)

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