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平成25年(行ケ)第10102号
膜分離用スライム防止剤事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 本願発明の効果は,引用発明1に記載のスライム防止剤を引用例2の教示に基いて膜分離用に用いることで,当然に奏する効果であるとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10102号(知財高裁 H26.02.27 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求 (請求棄却)
 原告/被告:栗田工業/特許庁長官
 キーワード:当然に奏する効果,用途発明,進歩性 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本願発明は,「次亜塩素酸アルカリ金属塩及びスルファミン酸アルカリ金属塩を含有することを特徴とする膜分離用スライム防止剤。」の発明である。審決は,本願発明と引用発明との一致点は,次亜塩素酸アルカリ金属塩,スルファミン酸アルカリ金属塩,アニオン性ポリマー及びホスホン酸化合物を含むスライム防止剤」である点,にあり,本願発明と引用発明の相違点は,「膜分離用」のスライム防止剤であるのに対し,引用発明では,膜分離の用途について記載がない点,にあるものと認定した。
 そして,審決は,引用例2の教示に接した当業者は,引用発明を膜分離用のスライム防止のために用いる動機付けを得るし,本願明細書に記載されている「ポリアミド系高分子膜等の耐塩素性の低い透過膜においても,透過膜の劣化を引き起こすことなく,微生物による透過膜の汚染を防止することができる。」との効果(「効果1」)及び「本発明で用いる塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を含有する水溶液を用いた場合においては,遊離塩素濃度はpHにより殆ど変化しない。」との効果(「効果2」)は,いずれも当業者であれば予想し得る程度のものであると判断した。

○知財高裁の判断

(1)引用例1の記載によれば,…引用発明に係るスライム防止用組成物は,冷却水系,蓄熱水系,紙パルプ水系,集じん水系,スクラバー水系などの水系に添加され,それにより,これらの水系において発生するスライムが配管等に付着するのを防止して,スライムの付着に起因する障害を防止しようとするものであると認められる。
 引用例2には,次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸を組み合わせて,結合ハロゲンを形成させて殺菌剤とし,…逆浸透メンブラン上の生物被膜を除去又は阻止することが記載されていることが認められ,このような引用例2の記載からすると,…引用発明についても,その用途を「膜分離用」とすることは,当業者が容易に想到することである。

(2)原告の主張する引用発明に係るスライム防止剤を膜分離用に用いたことによる効果については,引用例2に,このBCDMHについて,ポリアミドメンブランの寿命を大幅に短縮することなく使用できるが,この効果は,臭素及び塩素が,非常に低い濃度でしか放出されないことによるものであると記載されている。
 次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とを組み合わせたものも,BCDMHと同様,塩素が窒素と結合して結合塩素が形成されたものであり,これを殺菌剤として使用した場合,…ポリアミドメンブランの寿命を大幅に短縮することなく使用できることは,当業者にとって明らかといえる。

(玉腰 紀子)

○コメント

 本願発明は,引用発明に係るスライム防止剤と同一の組成であるスライム防止剤を膜分離用に用いる,というものである。引用発明のスライム防止剤の成分である次亜塩素酸アルカリ金属塩及びスルファミン酸アルカリ金属塩を反応させると,塩素が窒素して結合塩素が形成される点において,引用例2に記載された逆浸透膜メンブランの殺菌剤(代表的には,BCDMH:ブロモクロロジメチルヒダントイン)と同様の化合物となる。したがって,本判決では,本願発明の効果は,引用発明のスライム防止剤を引用例2の教示に基いて膜分離用に用いた場合に,当然に奏する効果であると判断された。 公知の組成物を,特定の用途に用いる発明については,その用途に用いることに阻害要因があるとか,公知の組成物に他の成分を加えて相乗効果を得たとか,新規なメカニズムを知見してこれを利用したなどの要素があれば,進歩性が認められ得る。 本願発明と引用発明は,これらの技術分野も近いものであったし,本願発明においては,スライム防止剤と膜分離との間に,このような要素が特に見当たらないことから,進歩性が否定されたものである。

(須山 佐一)

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