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平成25年(行ケ)第10048号
炭酸飲料の小出し装置事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 旧請求項1を削除して,旧請求項19を新請求項1にした補正は,減縮補正ではなく,請求項の削除に該当するから,独立特許要件違反として当該補正を却下した審決の手続は違法であるとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10048号(知財高裁 H26.02.26 判決)
 事件の種類:拒絶審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー./特許庁長官
 キーワード:審理手続の瑕疵,反論の機会,独立特許要件
 関連条文:特許法159条2項,50条,17条の2第6項

○事案の概要

 本件発明は,炭酸飲料(ビール)の小出し装置に関する発明である。原告は,本件発明について,平成11年3月16日に特許出願(特願2000-536650号,パリ条約による優先権主張1998年3月16日,オランダ国)をした。この出願に対しては,合計4回(第1回:平成21年1月22日,第2回:同年12月14日,第3回:平成22年4月12日,第4回:同年11月10日)の拒絶理由が通知され,各回の拒絶理由通知毎に補正がなされたが,平成23年7月8日付けで拒絶査定がなされた。
 原告は,これに対する不服の審判を請求するとともに,旧請求項1を削除して,旧請求項19を新請求項1にする等の手続補正を行ったが,特許庁は,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
 本件訴訟はこの審決に対してなされたものである。
 本件訴訟において,原告は,取消事由4として,上記第4回目の拒絶理由通知に応答してした補正後の請求項1~33の内,請求項19,20,27及び28について,拒絶理由が存在する旨の通知を受けていないにもかかわらず,審判(前置審査)において上記各発明についての拒絶理由が通知されず,反論の機会も一切付与されず審決に至ったことから,独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶した特許庁の審理手続には瑕疵がある,と主張した。
 これに対し,被告(特許庁)は,本件補正の目的は,旧請求項に係る発明について,請求項19,27の記載において被引用請求項に対して付加していた事項を付加したものであり,それは補正前後で請求項に記載された発明の産業上の利用分野のみならず解決しようとする課題も同一と評すべき程度の補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである,と審決で認定した旨を主張した。

○知財高裁の判断

 新請求項1は,旧請求項1を削除して,旧請求項19を新請求項1にしたものであるから,旧請求項1の補正という観点からみれば,同請求項の削除を目的とした補正であり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものではないから,前記のとおり,独立特許要件違反を理由とする補正却下をすることはできない。
 また,旧請求項19の内容は,新請求項1と同一であるから,旧請求項19の補正という観点から見ても,特許請求の範囲の限縮を目的とする補正ではない。したがって,審決は,実質的には,項番号の繰上げ以外に補正のない旧請求項19である新請求項1を,独立特許要件違反による補正却下を理由として拒絶したものと認められ,その点において誤りといわなければならない。
 そして,旧請求項19は,拒絶査定の理由とはされていなかったのであるから,特許法159条2項にいう「査定の理由」は存在しない。…したがって,審決において,旧請求項19である新請求項1を拒絶する場合は,拒絶の理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならない。(なお,仮に,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当したとしても,審決において,審査及び審判の過程で全く拒絶理由を通知されていない請求項のみが進歩性を欠くことを理由として,補正却下することは,適正手続の保障の観点から,許されるものではないと解される。)。

(玉腰 紀子)

○コメント

 拒絶査定審判において,拒絶理由が通知され補正を行う場合に,審査や審判の迅速性の要請から,補正には一定の制限が課されている。例えば,請求の範囲の減縮補正の場合には,独立特許要件を満たすことが必要となる。
 本件裁判において,被告である特許庁は,審査や審判の迅速化を十分に確保することも求められているとして,本件出願については,これまで既に5回の補正の機会を与えているので,更なる補正の機会を与えなかったことは,原告の補正の機会を不当に奪うことには当たらない旨を主張した。
 判決は上記被告の主張を退けた上,さらに,審査や審判の迅速性が要請される場合には,手続上の適正さを欠く処分であっても許容されるなどということは,行政処分における適正手続の保障の観点から,到底採用できる主張ではない,と説示している。

(須山 佐一)

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