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平成25年(行ケ)第10039号
合わせガラス用中間膜事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 引用発明の中間膜に含まれる機能性超微粒子について,明細書に例示された広範なものとして一致点とした審決の認定は適切ではないが,実施例の記載に基けば,一致点の認定は結論において誤りはないとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10039号(知財高裁 H26.01.29 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:積水化学工業/特許庁長官
 キーワード:引用発明の認定
 関連条文: 特許法29条2項

○事案の概要

 本願発明は,可塑化ポリビニルアセタール樹脂からなる合わせガラス用中間膜に関する発明であり,前記可塑化ポリビニルアセタール樹脂が,可塑剤であるトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートにより可塑化されたものであること,合わせガラスとしたときの,可視光透過率Tv,日射透過率Ts,ヘイズH,電磁波シールド性能ΔdB,及び所定の条件下での白化距離が規定されている。また,本願発明の合せガラス用中間膜は,熱線カット機能を有する金属酸化物微粒子とリン酸エステルとを含有することが規定されている。
 審決は,本件発明と刊行物1発明の一致点について,可塑化ポリビニルブチラール系樹脂が,ポリビニルブチラール系樹脂が可塑剤であるポリエーテルエステルにより可塑化されたものであり,前記合わせガラスが,本願発明で特定される可視光透過率Tv,日射透過率Ts,ヘイズHを有し,合せガラス用中間膜が,電波透過性,熱線カット機能を有する金属酸化物微粒子を含有することを認定した。また,審決は,相違点として,(a)電磁波シールド性能および(b)白化距離の特定,(c)合わせガラス中間膜が,「リン酸エステルを含有する」点,(d)可塑剤の相違,を認定した上で,本願発明を引用発明から想到容易であると判断した。
 本件訴訟において,原告は,本願発明と刊行物1発明の一致点のうち,「熱線カット機能を有する金属酸化物微粒子」を含有する点で一致するとの判断は誤りである,と主張した。

○知財高裁の判断

(1)本件審決は,刊行物1の実施例2の記載に基づいて刊行物1発明が「可塑剤であるポリエーテルエステルの3GHをポリビニルブチラール系樹脂に添加した樹脂」からなる合わせガラス用中間膜であると認定したのであるから,刊行物1発明を構成する「機能性超微粒子」は,本件審決が認定した「SnO,TiO,SiO,ZrO,ZnO,FeO,AlO,FeO,CrO,CoO,CeO,InO,NiO,MnO,CuO等の各種酸化物や9wt%SbO-SnO(ATO) InO-5wt%SnO(ITO)等の複合物からなる機能性超微粒子」という広範囲のものではなく,その中に含まれる実施例2で用いられた「ATO(導電性アンチモン含有錫酸化物)超微粒子」と認定するのが適切であったというべきであり,この点において本件審決における刊行物1発明の認定は適切とはいえない。また,刊行物1において,そのいずれもが「断熱性能」を発現することまで開示されていると認められないから,本件審決が上記各種の機能性超微粒子について「断熱性能を発現せしめる」と認定した点においても,本件審決における刊行物1発明の認定は適切とはいえない。
 一方で,刊行物3の記載事項によれば,刊行物1の実施例2で用いられた「ATO(導電性アンチモン含有錫酸化物)超微粒子」は,「熱線カット機能」を有するものと認められる。
 そうすると,本件審決が「熱線カット機能を有する金属酸化物微粒子」を含有する点を本願発明と刊行物1発明の一致点と認定したことは,結論において誤りがない。

(2)以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願発明は刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断に誤りはなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。

(玉腰 紀子)

○コメント

 判決は,審決が,本願発明と刊行物1発明の一致点を認定するに際し,中間膜が含む「可塑剤」について,刊行物1の実施例2に記載された「可塑剤」と対比して一致すると判断したのであるから,刊行物1の「機能性超微粒子」についても,刊行物1に多数列挙された広範囲のものと対比するのではなく,実施例2に記載されたATOと対比するのが適切であったというべきである,としながらも,刊行物3の記載によれば,ATOも「熱線遮蔽性無機微粒子」として作用するのであるから,本件審決における刊行物1発明の認定には不適切な点はあるが,結論において審決には誤りがないとして請求を棄却している。
 引用例の明細書中に,各成分について多数例示された具体的化合物は,各成分として例示された化合物の全ての組合せについて発明の効果が得られることを示したものではない。これに対して実施例は,そこに記載された範囲で発明の効果が得られたことを示すものである。したがって,このような引用例を公知技術として出願発明と対比する場合には,出願発明のある成分を実施例と対比し,他の成分を多数例示された化合物と対比することは,適切とはいえない。

(須山 佐一)

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