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平成25年(行ケ)第10248号
排気ガス浄化システム事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 副引用例の活性種と本件特許発明1の帯電微粒子との間には実質的な相違がなく,空気清浄機に係る技術を食品収納庫等に転用することが出願時の常套技術であることが認められるとして,審決の「動機付け」に関する認定が覆された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10248号(知財高裁 H26.05.26 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:日産自動車株式会社/特許庁長官
 キーワード:必須の構成,技術的思想の開示
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本件補正発明(請求項1)は,NOxトラップ材と,浄化触媒と,排気ガス中の酸素濃度を制御するO制御手段と,を備える内燃機関の排気ガス浄化システムであり,「排気ガスの空気過剰率λが1以下のとき,上記NOxトラップ材からNOxを脱離させ,上記O制御手段で浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5vol%に制御することによりHCの部分酸化反応を誘発し,この部分酸化を利用してNOxを還元させる」ことを発明特定事項としている。審決は,補正発明と引用発明の相違点として,O制御手段で浄化触媒入口における排気ガス中の酸素濃度を0.8~1.5%を含む濃度に制御するのに関して,排気ガス中の酸素濃度が,補正発明では,「0.8~1.5vol%」であるのに対して,引用発明では,2%以下であり,vol%であるか否かは明記されていない点を認定した上で,引用発明から容易想到で独立特許要件を欠くとして補正を却下するとともに,上位概念発明である補正前発明も引用発明から容易想到であるとして請求を棄却した。

○知財高裁の判断

(1)特許法29条1項3号に規定されている「刊行物に記載された発明」…が特許公報である場合に,必ず当該特許公報の請求項における発明特定事項を認定しなければならないものではない。一方で,「刊行物に記載された『発明』」である以上は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条1項)であるべきことは当然であって,刊行物においてそのような技術的思想が開示されているといえない場合には,引用発明として認定することはできない。本件において,審決は,前記のとおり,引用発明として,「HCが部分酸化されて活性化されNOxの還元反応が進みやすくなり,結果的にHC及びNOx浄化率が高まる」との効果を認定しておきながら,その作用効果を奏するための必須の構成である「Ce-Zr-Pr複酸化物」を欠落して認定したものである。したがって,審決は,前記作用効果を奏するに必要な技術手段を認定していないこととなり,審決の認定した引用発明を,引用例1に記載された先行発明であると認定することはできない。

(2)補正発明は,排気ガス中のO濃度を制御して,不完全燃焼を生じさせる,すなわち,HCの部分酸化により生じるHとCOにより,脱離NOxを有効に還元し,浄化するとの技術思想に基づくものであるところ,…排気ガスのO濃度を0.8~1.5vol%の範囲内で行うとの構成をとったものであり,この数値範囲には技術的意義があるものである。
 引用発明におけるHCの部分酸化は,「Ce-Pr複酸化物」に「Zr」を追加して「Ce-Zr-Pr複酸化物」としたことにより,…過剰に酸素が放出されてしまうことを避けることで達成されるものである。したがって,補正発明と引用発明とは,部分酸化反応を生起させる技術思想が全く異なっており,引用発明において,…O濃度に係る数値範囲を適用しようとする動機付けがあるとはいえない。加えて,引用発明の段落【0058】には,リーン燃焼運転時における酸素濃度が「2.0%以下」の場合だけでなく,「0.5%以下」との記載もあることにも照らすと,引用発明の記載に接した当業者において,リッチ燃焼運転時における排気ガスのO2濃度の下限を0.8%と設ける動機付けがあるとはいえない。

 したがって,補正発明が新規性及び進歩性を欠くとして,特許出願の際独立して特許を受けることができないとして本件補正を却下した審決の判断は,誤りである。

(玉腰 紀子)

○コメント

 本件において審決は,引用公開公報に記載されている引用発明の必須の構成要件を欠いた上位概念の技術的事項を本件補正発明と対比して一致点を認定したが,裁判所は,刊行物において技術的思想の創作が開示されているといえない場合には,引用発明として認定することはできない,として,審決の引用発明の認定は誤っており,これを前提とする一致点及び相違点の認定には誤りが含まれている,と判断している。
 本件は,引用文献が,未審査のそのまま出願内容が掲載される出願公開公報の場合であるが,一般技術文献の場合にも同じ考えが当てはまるものと考えられる。

(須山 佐一)

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