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平成25年(行ケ)第10235号
気体燃料用インジェクタ事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 引用発明1の主たる効果は,「シート効果の向上」であるが,補正発明の発明特定事項とされた「弁座への貼り付きの防止」という課題も内在するとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10235号(知財高裁 H26.04.23 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:株式会社ニッキ/特許庁長官
 キーワード:周知課題の内在,独立特許要件
 関連条文:特許法17条の2第1項3号,29条2項,53条

○事案の概要

 補正発明は,「(請求項1)弾性材により形成された基材の表面にフッ素樹脂のコーティング層を有する密接部材が作用面に配置されているインジェクタ弁体と,・・・気体燃料を所定の間隔で間歇的に前記燃料通孔に送る内燃機関の吸気通路に噴射するための気体燃料用インジェクタにおいて,前記インジェクタシートの表面に前記インジェクタ弁体の密着性と剥離性をよくして優れた応答性を付与するための低摩擦性のフッ素樹脂粒子を30~35容量%含有したNi-Pめっきからなる厚さが1~30μm程度であるコーティング層が施されて張り付きを防止することを特徴とする気体燃料用インジェクタ。」である(下線部は補正箇所を示す。)。
 審決は,補正発明と引用発明1との一致点を,「……低摩擦性のフッ素系樹脂粒子を含有したNi-Pめっきからなるコーティング層が施されて張り付きを防止するLNG燃料用インジェクタ。」と認定した上で,補正発明は引用発明1乃至3に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから推考独立特許要件を欠き,補正前発明も進歩性を欠くとして,請求を棄却した。

○知財高裁の判断

(1)引用発明1において,弁座にフッ素系樹脂粒子が分散された複合分散メッキを施した目的は,シート効果の向上であると認められるのであり,引用発明1が,弁体と弁座との貼り付きの防止を企図した発明であったということはできない。

(2)引用発明1と引用発明2は,液化石油ガスを燃料とする燃料噴射弁(インジェクタ)という共通の技術分野に属する発明であり,共に,インジェクタ弁体と弁座のインジェクタシートの接離に関する発明であるところ,引用発明1には,前記イのとおり,弁体の当たり面をフッ素ゴムで構成したことにより,弁体と弁座との貼り付きという周知の課題が内在するものと認められ,引用例2には,前記ウのとおり,ゴム材による弁体をフッ素樹脂コーティングすることにより弁座部との貼り付きを防止するとの解決が開示されていることから,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けが認められる。

(3)引用発明1に引用発明2を適用した場合,結果として,フッ素樹脂のコーティング層により,「剥離性をよくする」作用効果を奏し,密着性をよくすることと相まって,「密着性と剥離性をよくして優れた応答性を付与する」ことができ,「張り付きを防止する」という補正発明と同様の作用効果を奏することは,当業者が容易に想到できるものと認められる。さらに,相違点3についても,上記(2)及び(3)に指摘した技術常識は,引用発明1が,可塑剤によって生じるインジェクタ弁体のフッ素樹脂塗膜と金属シートとの貼り付きを防止するとの課題を直接的に開示していないとしても,当たり面がフッ素ゴムからなる弁体と弁座との貼り付きを課題として内在していることに照らすと,引用発明1においても,十分,適用可能なものである。

 そうすると,補正発明は,進歩性を欠き,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,補正を却下した審決の判断に誤りはない。

(玉腰 紀子)

○コメント

 外見上は同じ部材であっても,二つの発明において互いに異なる課題の解決に用いられる場合は,基本的には,両者の発明の一致点とすることはできない。
 引用発明1では,「弁座にフッ素系樹脂粒子が分散された複合メッキ」を施した目的は,「シート効果の向上」にあり,補正発明では,請求項に「張り付きを防止する」と明記されているから,原則は,これらの構成を両者の一致点とすることはできないものである。
 しかし,裁判所は,乙8号証,乙9号証などを引用して,燃料系の弁部材に用いられるゴム材が粘着性を有することは周知の課題であり,引用例2にもフッ素樹脂塗膜で張り付き防止をはかることが開示されている,として,補正発明は,引用発明1,2から当業者が容易に想到することができ,結果において審決に取消すべき誤りはないとした。
 複数の引用発明において,課題が相違することは一方を他方に適用することについて阻害要因とされることが多いが,本件では,請求項に解決課題を明記した出願発明に対して,この解決課題は周知であり,この課題は引用発明にも内在するとして,容易想到であると判断された。

(須山 佐一)

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