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平成25年(行ケ)第10268号
放射能除染装置事件


弁理士  玉腰 紀子
弁理士  須山 佐一

○判決のポイント

 特許法29条1項3号及び同条2項の「発明」は,従来技術よりも優れた効果を奏するものである必要はなく,水素水による除染に関する引用発明2は,水道水よりも効果が劣るとしても「発明」に該当し,審決の判断に誤りはないとされた。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10268号(知財高裁 H26.05.07 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:X/特許庁長官
 キーワード:発明,技術的思想の創作
 関連条文:特許法2条1項,29条1項3号,29条2項

○事案の概要

 本願発明は放射能除染装置に係る発明であり,「原料水に前記水素ガスを溶解させ,常温常圧下における溶存水素量1.2~1.6ppmの水素分子が溶け込んだ水素水を製造する水素水製造手段」を備えることを発明特定事項としている。審決は,本件発明1と引用発明1の相違点のうち,本願発明では,洗浄液が「常温常圧下における溶存水素量1.2~1.6ppmの水素分子が溶け込んだ水素水」であるのに対して,引用発明1は,そのような構成を有さない点について,引用発明1に,インターネットブログ記事(引用例2)に記載された「除染用の洗浄液として水素水を用いること」(「引用発明2」)を適用し,水素水として高濃度のものを用いることで,当業者が容易になし得る事項であると判断した。なお,引用例2には,水素水による除染は従来の水道水による除染よりも除染効果が劣ることが記載されている。

○知財高裁の判断

(1)引用例2には,放射性セシウムによる土壌の除染について記載されており,標準土壌Bとの比較において,「創生水」,「EM菌」,「水素水」のいずれを検体土壌に注いで濾過した場合でも,放射性セシウムが20%ほど減ることが記載されている。・・・引用例2には,審決が認定したとおり,「除染用の洗浄液として水素水を用いること」が記載されていると認められる。
 引用例2の「除染用の洗浄液として水素水を用いること」が,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり,特許法2条1項で定義される「発明」に該当するものであることは明らかである。したがって,引特許法29条1項3号及び同条2項における「発明」に該当するものと認められる。

(2)特許法29条1項3号及び同条2項における「発明」は,同法2条1項の定義によるものと解されるから,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」であれば足り,課題を解決する方法として,一定の効果を有するものであれば足り,従来技術よりも優れた効果を奏するものでなければならないと解する必要はない。
 引用例2には,水素水を洗浄液として用いた場合に,除染の効果を奏することが理解できるのであるから,水道水による除染よりも効果が劣るとしても,原告主張のように全く効果を奏しないものではない。引用例2には,「除染用の洗浄液として水素水を用いること」により,土壌に含まれる放射性セシウムが減ることが記載されており,所期の効果を奏するものと認められるから,未完成発明とはいえない。以上によれば,引用例2に記載された引用発明2は,「発明」であり,引用適格性を欠いていると認めることはできず,引用発明2を副引用例として用いた審決の判断に誤りはない。

(3)引用例2の・・・原料水に水素ガスを溶解させることは,周知技術であり,また,「常温常圧下における溶存水素量1.2~1.6ppmの水素分子が溶け込んだ水素水」も,水素水として通常のものである。そうすると,引用発明1に係る移動式除染装置において,洗浄液として「水素水」を用いることとし,・・原料水に前記水素ガスを溶解させ,常温常圧下における溶存水素量1.2~1.6ppmの水素分子が溶け込んだ水素水を製造する水素水製造手段」を備えさせることは,当業者が容易に想到することである。

(玉腰 紀子)

○コメント

 裁判所は,特許法29条1項,2項にいう「発明」について,従来技術よりも優れた効果を奏するものでなければならないわけではなく,一定の効果を有するものであれば足りるとしている。
 本判決では,引用例2には,水素水は水道水よりも除染効果が劣るものの,水素水を用いた場合に,放射性セシウムが20%ほど減るとの除染効果があることから,引用発明1に引用発明2の水素水を組み合わせることが,発明の目的に貢献しないとはいえず,引用発明1に引用発明2を組み合わせることに動機付けがあるとしている。
 なお,電気,機械関係のように構成と効果の関係が明確な技術については,公知文献に「効果」についての明示的な記載がなくても殆どの場合,同条記載の「発明」に該当するものと解される。

(須山 佐一)

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