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平成24年(行ケ)第10151号
高強度高延性容器用鋼板事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

炭素の含有量と引っ張り試験における物性値で特定された高強度高延性容器用鋼板の発明についてサポート要件を認めた特許維持審決が取消された。

 事件番号等:平成24(行ケ)10151号(知財高裁 H25.2.20 判決言渡)
 事件の種類:維持審決取消請求
 原告/被告:JFEスチール/新日鐵住金
 キーワード:サポート要件,明確性要件,新規性
 関連条文:特許法29条1項3号,同法36条6項1号,同2号

○事案の概要

 本件訂正後の発明は,「重量%で,C:0.005~0.040%を含有し,JIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力が430MPa以上,全伸びが15%以下で,10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下で,引張強度と0.2%耐力の差が20MPa以上であることを特徴とする板厚0.4mm 以下の高強度高延性容器用鋼板。」である。
 本件の原告である請求人は,本件特許に対し,無効審判を請求したが,審決は,本件訂正発明は,「高強度」の解決を「元素の添加」ではなく,「主として2CRによる加工硬化」によって求めようとする技術的思想が開示されているとした上,特許請求の範囲の記載は,サポート要件及び明確性要件に適合し,かつ本件発明は,甲1発明と同一ではなく公知刊行物記載の発明には該当しない,として請求を棄却した。

○知財高裁の判断

 知財高裁は,以下の理由で,本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合しない,として特許維持審決を取消した。

(1)鋼板の成分について
 「……のみならず,そもそも,合金は,通常,その構成(成分及び組成範囲等)から,どのような特性を有するか予測することは困難であり,また,ある成分の含有量を増減したり,その他の成分を更に添加したりすると,その特性が大きく変わるものであって,合金の成分及び組成範囲が異なれば,同じ製造方法により製造したとしても,その特性は異なることが通常であると解される。そして,訂正明細書の発明の詳細な説明に開示された鋼の組成についてみると,含有する成分として,……と特定しているところ,上記以外の成分及び組成範囲を有する鋼を用いる場合においても,上記の所定の製造方法により製造された鋼板が,良好なフランジ成形性を有するものであるとは,当業者が認識することはできないというべきであり,また,そのように認識することができると認めるに足りる証拠もない。
 そうすると,……C以外の成分について何ら特定していない本件訂正発明は,発明の詳細な説明に開示された技術事項を超える広い特許請求の範囲を記載していることになるから,訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」

(2)鋼板の全伸びについて
 特許請求の範囲の記載は,全伸びについて,「15%以下」と特定するものであり,その下限値を特定しないものである。
 「……しかし,一般に,鋼板の延性が低いほど加工性が劣ることは,当業者にとって自明の事項であるから,全伸びが相当程度小さい場合には,フランジ成形性は相当程度劣るものと解されるところ,「10%の冷間圧延前後のJIS5号試験片による引張試験における0.2%耐力の差が120MPa以下」との要件は,加工硬化の程度が小さく,フランジ成形性があまり劣化しないということを意味するものにすぎず,上記要件を満たしたとしても,それによりフランジ成形性が向上するものとは解されない。」

(玉腰 紀子)

○コメント

(1)本件判決は,発明の詳細な説明には,鋼板について,特定の添加成分と配合組成しか開示していないのに,特許請求の範囲では,鋼板の添加成分,配合組成の特定をしていないことから,開示された技術事項を越える広い範囲を請求していることになる,と判断している。

(2)判決が説示するとおり,鋼板の延性が低いほど加工性が劣ることは,当業者にとって自明の事項であるから,全伸びが「15%以下」で0%よりも大きい範囲に,「高延性」と認めることができなくなる全延びの下限値がある筈である。
 実施例における判定で○とされているのは,全伸びが「10%以上」のものだけであるから,全延びの下限を特定していない特許請求の範囲は,結果的に,全伸びが「10%未満」の比較例の範囲まで請求していることになる。

(3)なお,本件判决を受けて行われた無効審判の差戻し審理において,被請求人(本件被告)は,本件発明について,C以外の組成(Si,Mn,P,S,Al,Nの含有量)の限定及び全伸びの下限の規定(全伸びが10%以上)等を内容とする訂正請求をしている。そして,差戻し審理において,当該訂正後の発明についてサポート要件が認められ,特許維持審決がなされている。

(須山 佐一)

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