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平成24年(行ケ)第10387号
安定化された臭化アルカン溶媒組成物事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

本件発明に係る組成物の使用条件が定まるまでは,この物が「安定化された溶媒組成物」に該当するのか否かを特定できず,本件発明は明確性の要件を欠くと判断された。

 事件番号等:平成24年(行ケ)第10387号 (知財高裁 H25.09.19 判決言渡)
 事件の種類:無効審決取消請求
 原告/被告:アルベマール・コーポレーション/カネコ化学
 キーワード:明確性要件,サポート要件,拡大先願発明
 関連条文:特許法29条の2,同法36条6項1号,2号

○事案の概要

 本件発明1は,「安定化された溶媒組成物であって,臭化n-プロピルを少なくとも90重量%含有する溶媒部分とニトロアルカン,1,2-ブチレンオキサイドおよび1,3-ジオキソランを含んでいて1,4-ジオキサンを含まない安定剤系部分を含む溶媒組成物。」である。
 審決は,①本件発明1における「安定化された溶媒組成物」との記載について,使用条件が特定されていない「安定化された溶媒組成物」との記載は明確ではなく,本件発明1は明確性の要件を欠く,②本件発明1は,甲1に記載された拡大先願発明と同一と認められる,と判断した。

○知財高裁の判断

①本件明細書には,「安定化された」を定義する記述はない。そこで,「安定化」についての意味を検討すると,甲1及び甲3の記載から,本件発明の技術分野では,安定化とは,洗浄に使用する組成物を金属と高温又は長時間接触させた場合に金属を腐食させないようにすることを意味するものということができる。そして,本件明細書においても,安定という用語が,洗浄に使用する組成物を金属と高温で接触させた場合に金属を腐食させないようにすることを意味するものとして使用されていると理解できる。
 しかし,本件発明の溶媒組成物について,原告が主張する安定化の意味に従えば,本件発明1で規定された「溶媒組成物」という物が存在しても,この組成物の使用条件が定まるまでは,この物が「安定化された溶媒組成物」に該当するのか否かを特定できないということになる。
 したがって,審決の判断に誤りはなく,上記のような「安定化」との用語を使用して特許発明を特定することは不適切であって,このような用語を使用して特定された発明は,特許請求の範囲の明確性の要件を欠くといわざるを得ない。

②原告は,甲1は「1,4-ジオキサンを含まない」という技術思想を開示していないにもかかわらず,審決が,甲1の段落【0015】の記載が,1,3-ジオキソランを含み1,4-ジオキサンを含まない態様を開示していると判断したのは,段落【0015】に記載された物質の中から自己に都合のよいものだけを選択して組み合わせている点で違法であると主張する。しかしながら,「1,4-ジオキサンによる健康障害を防止するための指針について」(甲11)の官報公示を踏まえて先願明細書の段落【0015】の記載に接した当業者であれば,そこに併用可能な安定剤として例示された1,4-ジオキサンについては,健康障害の観点から1-ブロモプロパン組成物の安定剤として使用できないということを直ちに想起するものである。

 以上のとおりであるから,……,本件発明1は,先願の願書に最初に添付された明細書に記載された拡大先願発明1と同一の発明というべきであって,審決の結論に誤りはない。

(玉腰 紀子)

○コメント

①明確性要件について
 本件特許明細書には,「しかしながら,臭化プロピルを蒸気洗浄系で用いる場合には,安定化が必要である。温度を……69-71℃にすると……金属の腐食がもたらされる可能性がある。」との記載がある。また,明細書には,この場合,安定剤を用いることができるとも記載されている。しかし,69-71℃の温度範囲は,蒸気洗浄の際に,洗浄対象の金属表面が曝される可能性のある温度範囲であるし,安定剤が必要であるということは,とりもなおさず,本件発明の溶媒組成物自体が安定化されたものではないことを意味するから,使用条件が定まるまでは,この物が「安定化された溶媒組成物」に該当するのか否かを特定できない,と判断されたものである。
 「蒸気洗浄系で用いる場合を除く」クレームがあれば,このクレームについては明確性要件違反の理由を回避できたかもしれない。

②拡大先願発明との同一
 原告は,「1,4-ジオキサンを含まない」ことが拡大先願明細書に記載されていないことを,本件発明が拡大先願発明と同一発明ではない理由として主張した。これに対して知財高裁は,「1,4-ジオキサン」は,本件の優先権主張日前の官報により,健康障害の観点から1-ブロモプロパン組成物の安定剤として使用できないということを直ちに想起されるものである,として審決の判断に誤りはない,と判断している。

(須山 佐一)

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