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平成24年(行ケ)第10052号
光沢黒色系の包装用容器事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

特許請求の範囲に材料シートの物性値を規定し,実施例では材料シートの物性値を記載せずにその製品であるシート切出し片の物性値を記載したことから,サポート要件違反及び実施可能要件違反と判断された。

 事件番号等:平成24年(行ケ)第10052号(知財高裁 H25.01.31 判決言渡)
 事件の種類:無効審決取消請求
 原告/被告:リスパック/エフピコ
 キーワード:サポート要件,実施可能要件
 関連条文:平成14年改正前の特許法第36条第4項,同第6項第1号

○事案の概要

本件は特許第3803823号の第2次無効審決(以下,単に「審決」という。)に対する審決取消訴訟である。本件発明は,多層のポリエチレンテレフタレートを主成分とするシートを用いた光沢黒色系の包装用容器に関する発明であり,内層側シートに用いるポリエチレンテレフタレートが,「熱分析器の測定された昇温結晶化温度が128度以上,且つ,結晶化熱量が20mJ/mg以上」のもの,と物性値で規定されている。

審決は,本件について,次の理由でサポート要件及び実施可能要件を充足しないものと判断した。

① 本件発明は,内層側のシート層について,昇温結晶化温度及び結晶化熱量は,包装用容器が成形される前のシート層の物性値を規定するものであるが,本件明細書には,多層に成形後の物性値が記載されているだけであり,本件発明のような所定の物性値をもつシートを用いた包装用容器は,本件明細書に記載されていない。

② 本件明細書には,容器への成形前後で同等な昇温結晶化温度及び結晶化熱量が得られるために必要な条件が記載されていない。

○知財高裁の判断

(1)本件明細書には,昇温結晶化温度及び結晶化熱量について,特許請求の範囲に記載された「シート層」の数値範囲を満たすことによって課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がなく,…本件明細書の比較例2によれば,特許請求の範囲で構成する数値範囲から,容器成形によって,昇温結晶化温度が1度,結晶化熱量が1mJ/mg外れただけでも課題が解決できないことになるのであるから,本件明細書が実施可能要件を満たすというためには,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値について,容器成形前のシート層と容器成形後の容器切り出し片との間で,当業者が通常採用する条件であればこれらの物性値が不変であるか,当業者が通常なし得る操作によりこれらの物性値の変化を正確に制御し得るか,あるいは,これらの物性値が変化しないような成形方法や条件が本件明細書に記載される必要があるというべきである。

(2)原告提出の実験結果報告書の記載に照らすと,成形温度のみならず,成形時間や延伸の程度によっても,上記の物性値は変化するものと認められるのであって,当業者であっても,それらの物性値の変化を正確に予測したり,制御したりすることは容易ではないと認められる。さらに,上記の物性値が変化しないような成形方法や条件について,本件明細書には記載も示唆も認めない。

以上のとおりであるから,本件発明は,技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明によりサポートされているとは認められない。また,本件明細書に,成形条件による上記の物性値の制御について記載や示唆がないことからすると,当業者といえども,本件発明に係る光沢黒色系の包装用容器を製造することは容易ではない。

(玉腰 紀子)

○コメント

一般に高分子材料を用いて加熱成形する場合には,成形時の高温や加工の際の剪断,延伸などの影響で,程度の違いはあれ成形前後で物性値は変化する。
 本件では,特許請求の範囲に,シートの物性値として「昇温結晶化温度が128度以上」,「結晶化熱量が20mJ/mg以上」と規定したのに対して,実施例,比較例では,容器成形後の容器切り出し片状態での「昇温結晶化温度」,「結晶化熱量」を記載し,しかも比較例の容器切り出し片のそれが,「127度」,「19mJ/mg」と請求項で規定したそれぞれの下限値に近かったことから,サポート要件,実施可能要件を充足していない,と判断された。  ところで,本件明細書の実施例を見ると,3つある実施例の「昇温結晶化温度」はいずれも「130度以上」,「結晶化熱量」はいずれも「25mJ/mg以上」と,比較例の「昇温結晶化温度」,「結晶化熱量」の値からずいぶん離れた値である。
 また,本件明細書には,ポリエチレンテレフタレートの物性値につき,「昇温結晶化温度は128度以上,好ましくは130度以上,且つ,結晶化熱量は20mJ/mg以上,好ましくは25mJ/mg以上である。」と、好ましい物性値の範囲が記載されている。  そこで,請求項の物性値を,好ましい範囲である「昇温結晶化温度は130度以上,且つ,結晶化熱量は25mJ/mg以上」と訂正していたら結果はどうなっていたであろうか。
 ポリエチレンテレフタレートは,比較的熱的に安定なポリマーであるから,この物性値の範囲のものであれば,1回の成形によって比較例の物性値以下の値になることは考えにくいであろうから,一つの対応策として検討の価値があるように思われる。

(須山 佐一)

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