知的財産情報

ホーム > 知的財産情報 > 判例紹介 > ロウ付け用のアルミニウム合金製の帯材事件

判例情報


平成25年(行ケ)第10277号
ロウ付け用のアルミニウム合金製の帯材事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

 真空雰囲気下でのろう付けで,イットリウムの含有によりろう付けの際のエロージョンを抑制できたとしても,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法において,改善されたろう付け性が得られるかどうかは,試行錯誤なしに当然に導き出せる結論ではない,として,審決が取り消された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10277号(知財高裁 H26.08.27 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:コンステリウムフランス他/特許庁長官
 キーワード:引用発明の認定,相互の互換性,試行錯誤なしに当然に導き出せる結論
 関連条文:特許法29条2項

○事案の概要

 本願発明の要旨は,「(請求項1)管理された窒素の雰囲気下で無フラックスのろう付けによってろう付けされた部材を製造するための,重量パーセントで,少なくとも80%のアルミニウム,ならびに,・・・を含む芯材用のアルミニウム合金製の帯材または板材における,0.01~0.5%のイットリウムの使用。」である。
 審決は,本件発明と引用発明の相違点2を,本願発明は,管理された窒素の雰囲気下でフラックスレスのろう付けによってろう付けされた部材を製造するための芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材であるのに対し,引用発明は,真空雰囲気下でのろう付けによってろう付け部材を製造するための芯材用アルミニウム合金製の帯材又は板材である点,と認定し,真空ろう付け法が窒素ガス雰囲気ろう付け法とともにフラックスレスろう付け法の一手法であることは,技術常識として古くから広く知られているから,本願発明は,引用発明及び刊行物2の記載に基いて,当業者が容易になし得ることである,と判断した。

○知財高裁の判断

(1)原告は,相違点2に対する認定の誤りを主張するが,・・・進歩性等の有無を検討する上で,引用発明を認定する場合,本願発明との対比をするために必要な限度で,引用発明の認定の基礎となった文献に記載された技術思想を,発明として抽出すれば足りるものである。・・・本願発明が方法の発明であるとしても,発明の目的,作用効果に関する具体的記載が請求項にない以上,本願発明との対比において引用発明を認定するに当たって,引用発明におけるイットリウムの使用の目的,作用効果を認定する必要はないものといえる。原告が指摘するような,引用発明におけるエロージョンを抑制するという所定の目的,作用効果は,本願発明との相違点の容易想到性の判断において検討すれば足りるというべきである。

(2)アルミニウム合金ブレージングシートを使用してろう付けする際に,どのような成分組成のものが使用されるかは,通常,ろう付け法により決せられ,真空雰囲気下でのろう付け法と,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法が,いずれも同じフラックスレスろう付け法であるとしても,これらのろう付け法において使用されるろう材,芯材は,通常,区別されるものであるとされていた。
 本願発明と引用発明とは,いずれも,ろう付けされた部材の製造に使用される,芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材において,所定量のイットリウムを含有させる点で共通するものである。また,・・・エロージョンの抑制には,結果的にはろう付け性を改善するといえる側面もあり,本願発明と引用発明の技術課題に重なり合う部分が存在すること自体は否定し難い。しかしながら,本願発明は,管理された窒素雰囲気でのろう付けによるものであるのに対して,引用発明は,真空雰囲気下でのろう付けによるものであるという相違点があるのであり,相違点2に係る構成が当業者にとって容易に想到し得るものか否かは,結局,刊行物2に記載されたイットリウムの使用が,管理された窒素雰囲気下でのろう付けにも使用できるという示唆があるかどうか,また,本願出願時の技術常識から,それぞれのろう付け法におけるろう材や芯材の相互の互換性があるといえるか否かにより判断されるべきである。
 上記のとおり,本願出願時には,ろう付け法ごとに,それぞれ特定の組成を持ったろう材や芯材が使用されることが既に技術常識となっており,・・・。したがって,真空雰囲気下でのろう付け法である引用発明において,芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させることにより,ろう付けの際に生じるエロージョンを抑制することができるものであるとしても,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法において,改善されたろう付け性が得られるかどうかは,試行錯誤なしに当然に導き出せる結論ではない。

 したがって,相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえず,この点に関する審決の判断は誤りである。

(玉腰 紀子)

© 2017 SAKURA PATENT OFFICE. All Rights Reserved. 特許業務法人 サクラ国際特許事務所
〒101-0047 東京都千代田区内神田1丁目18-14 ヨシザワビル6階
Tel. 03-5577-3066(代)/Fax. 03-5577-3067
国内および外国特許・意匠・商標の出願代理、鑑定、相談、訴訟|特許業務法人 サクラ国際特許事務所