本件明細書の実施例に示された結果からは,モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満たす組成であることで課題を解決したとは理解できず,サポート要件に適合しない,とされた。
事件番号等:平成28年(行ケ)第10215号(知財高裁 H29.10.26)
事件の種類(判決):維持審決取消請求(審決取消)
原告/被告:日鐵住金建材株式会社/JFEスチール株式会社
キーワード:サポート要件,モールドパウダーの組成,凝固温度
関連条文:特許法36条6項1号
技術常識を考え合わせると,凝固シェルの厚みは,モールドパウダーの組成によって異なる凝固温度にも影響されると認められる。本件明細書記載の実施例において,モールドパウダーBとモールドパウダーAについて,凝固温度は記載されていない。また,化学成分として,SiO2,Al2O3,CaO,MgO,N2Oのみが挙げられ,残りの成分が何であったのか不明であるから,その組成から凝固温度を推測することもできない。これらのことから,本モールドパウダーBがモールドパウダーAと比較してバルジング性湯面変動を抑制することができたのは,モールドパウダーが(1)式及び(2)式を満たす組成であることによるのか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明からは,不明であるといわざるを得ない。
連続鋳造にモールドパウダーを用いた場合,モールドパウダーは,主に,固体(粉末)の状態で,鋳型に入れられ,溶鋼が固体化する過程にある鋳片からの熱伝達により融解し,鋳片と鋳型の間においてパウダーフィルムを形成し,鋳型直下では鋳片に接していない側から冷却されることが認められる。一方,本件明細書のモデル実験においては,熱の移動方向が実際の連続鋳造における熱の移動方向とは逆になっている。そうすると,鉄及びモールドパウダーの熱伝達率の差が,実際の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱伝達率の差と同じであるとは考え難い。また,前記のとおり,モデル実験に用いられた鉄及びモールドパウダーの組成の全容は,明らかでないから,このことからも,モデル実験における鉄及びモールドパウダーの熱収縮率の差が,実際の連続鋳造時の鋳片及びモールドパウダーの熱収縮率の差と同じであるかは,不明である。