本件特許の原出願日当時において特性が検討された温度範囲よりも高い温度範囲に着目してランフラットタイヤの補強用ゴム組成物の特性を規定した本件特許発明は,当業者が容易に想到できたものではない,とされた。
事件番号等:平成28年(行ケ)第10180号(知財高裁 H29.07.11)
事件の種類(判決):維持審決取消請求(請求棄却)
原告/被告:住友ゴム工業株式会社/株式会社ブリヂストン
キーワード:進歩性,動機付け
関連条文:特許法29条2項
本件特許の原出願日当時において,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物の温度範囲は,せいぜい150℃以下の温度範囲で着目されていたにとどまるのであるから,この温度範囲を超えた温度を前提として補強用ゴム組成物の特性を検討しようとは考えないというべきである。
したがって,一般的なゴム組成物における検討内容から,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物において,170℃から200℃までの動的貯蔵弾性率の変動に着目することを,当業者が容易に想到することができたということはできない。
引用例2には,タイヤ用ゴム組成物において,275℃から330℃までの各温度においてブローアウトしたか否かについて計測されている。しかし,その課題は,急激な温度上昇下におけるトレッドゴム組成物の耐熱性を向上させるというものであって,トレッドゴム組成物と本件発明の補強用ゴム組成物とは,部位が全く異なり,また,引用例2は,ランフラットタイヤを前提とするものでもない。
引用例3には,空気入りタイヤのゴム組成物において,150℃及び190℃における加硫戻りの有無,モジュラス値について計測されている。しかし,当該ゴム組成物が対象とする部位は,ワイヤコート,ビードコート,プライコート及びトレッドであって,本件発明の補強用ゴム組成物とは全く異なり,また,引用例3は,ランフラットタイヤを前提とするものでもない。
引用発明2,3は,ランフラットタイヤの補強用ゴム組成物における170℃から200℃までの温度範囲に着目するものということはできない。引用発明1に引用発明2又は引用発明3を適用しても,相違点1に係る本件発明の構成には至らないというべきである。