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平成25年(行ケ)第10291号
固体農薬組成物事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

 拡大先願発明において,混合するナタネ油の量それ自体が非常に少なく,軽石に既に浸み込んだ後のナタネ油が,農薬活性成分を溶解させる機能を果たすだけの湿潤性をなお保持しているか疑問が残るとして,審決の判断が取り消された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10291号(知財高裁 H26.07.16 判決言渡)
 事件の種類(判決):拒絶審決取消請求(審決取消)
 原告/被告:クミアイ化学工業株式会社/特許庁長官
 キーワード:課題解決のための具体化手段における微差,実質同一,実質的機能
 関連条文:特許法29条の2

○事案の概要

 本願発明の要旨は,「(請求項1)ワタ,・・・から選ばれる吸油性の高い繊維作物の破断物と,常温で液体の農薬活性成分または農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物とを含有することを特徴とする水田用固体農薬組成物。」である。
 審決は,本願発明と拡大先願発明の一応の相違点αを,「農薬活性成分」が,本願発明においては「常温で液体の農薬活性成分または農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」の形態で含有されているのに対して,拡大先願発明においては当該形態で含むものとして明示されていない点,と認定し,拡大先願発明の農薬製剤は,遊星運動型混合機を使って得られたものであって,その混合時に低融点の農薬成分(ベンフレセート7.0重量%及びアニロホス8.0重量%)が液状化するとともに,ナタネ油(及び界面活性剤)が実質上の「液体溶媒」として作用して,農薬成分がナタネ油(及び界面活性剤)に溶解又は分散した液状物の形態で含まれているものと推認されるから,上記αの点は相違点ではない,と判断した。

○知財高裁の判断

 審決は,拡大先願発明の農薬活性成分であるアニロホスとベンフレセートが遊星運動型混合機による混合で融点降下して液状化すると認定した。融点降下は,あらゆる物質を混合した場合に起きるわけではなく,むしろ,特定の選択された化合物間においてのみ認められ,融点が低い化合物を混合したからといって常温で液状化するとはいえない。拡大先願発明において,アニロホス,ベンフレセートにつき融点降下が生じる条件が整っていると認めるに足りる具体的・技術的根拠はなく,融点降下が起きていると断定することは困難である。
 界面活性剤については,当事者双方の主張自体において,必ずしも液体であることを前提としていない・・・。拡大先願発明において,そもそも混合するナタネ油の量それ自体が非常に少なく,液体溶媒として機能する上で十分か・・・,拡大先願発明は,混合造粒機に焼成軽石を加え,運転しながらナタネ油を浸み込ませた後,・・・過程を経て作成するものであるから,焼成軽石に既に浸み込んだ後のナタネ油が,農薬活性成分を溶解させる機能を果たすのに充分なだけの湿潤性をなお保持しているかという点にも疑問が残る。したがって,拡大先願発明において,ナタネ油が液体溶媒として機能するとは必ずしもいえず,この点においても,審決の判断には誤りがあるというべきである。
 溶媒の役割を果たすべき液体のナタネ油の量は6%と非常に少ない上に,予め焼成軽石に浸み込まされているために農薬活性成分と混合した際に触れる量はより一層少ないから,ナタネ油は,混合された固体の農薬活性成分を液状化するまでには至らず,結合剤として機能するだけで,固体の農薬活性成分を焼成軽石の表面や内部空隙に結着させるにすぎないと考えられる。したがって,拡大先願発明において,農薬活性成分が製造過程において液状になることはなく,「液体」又は「液状物」が「含有」されたものとはいえないから,「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」することを必須とする本願発明とはこの点において相違がある。
 確かに,本願発明と拡大先願発明はいずれも物の発明であるところ,本願発明において,液体溶媒に分散された固体農薬活性成分が繊維作物の破断物の内部空隙まで浸透せずに表面に結着して存在する場合,生成物同士を比較すると,本願発明と拡大先願発明との間で固体農薬活性成分の存在形態に違いがない以上,両者を区別することはできない。また,拡大先願発明において,ケナフ粉の空隙と焼成軽石成分粒子の大小関係次第では・・・,農薬活性成分が繊維作物破断物の内部へ浸透する場合の本願発明と,固体農薬活性成分の存在形態に違いがなくなり,両者を区別することはできないことになる。このように,本願発明と拡大先願発明の固体農薬組成物に重なり合う部分があることは否定できないが,本願発明の請求項に「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」するという記載がある以上,拡大先願発明との対比においてこの点を無視することはできないのであって,拡大先願発明がこの点を具備しない以上,相違点と認めざるを得ない。
 したがって,審決の一応の相違点αに関する判断には誤りがある。

(玉腰 紀子)

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