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判例情報


平成25年(行ケ)第10208号
炭酸ジメチルを用いたインドール化合物のメチル化事件


弁理士 玉腰 紀子
弁理士 須山 佐一

○判決のポイント

 刊行物2ないし4のN-メチル化される化合物には「Ph-NH-」という化学構造の共通性があると認定した本件審決の理由は誤りであるが,当該審決の誤りは容易想到性の判断を左右しない,として,審決が維持された。

 事件番号等:平成25年(行ケ)第10208号(知財高裁 H26.07.30 判決言渡)
 事件の種類:拒絶審決取消請求(請求棄却)
 原告/被告:エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー/特許庁長官
 キーワード:化学構造の共通性,容易想到性,動機付け,格別顕著な効果
 関連条文:特許法29条2項

○事件の概要

 本願発明は,「[請求項1]一般式(I):【化1】で表わされるメチル化されたインドール化合物の製造方法であって,炭酸カリウム(KCO)および/または相間移動触媒としての臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)の存在下で,周囲圧にて,以下の一般式:【化2】で表わされる化合物を炭酸ジメチルと反応させる操作を含む方法。」である。
 

審決は,本願発明と引用発明の相違点について,インドール系化合物のメチル化に際し,引用発明は,NaHの存在下,CHIを用いて行う点で本願発明と異なることを認定し,引用発明と刊行物2ないし4に記載された発明は,「Ph-NH-」という化学構造を含む化合物のメチル化という点で共通することから,引用発明のメチル化の条件を刊行物2ないし4に記載されたものに変えることは当業者にとって容易である,と判断した。

○知財高裁の判断

(1)本願の優先権主張日において,構造が相当程度異なる様々な有機化合物についてメチル化剤として炭酸ジメチルが使用されており,その際には,弱塩基である炭酸カリウム(KCO)と相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行っていると認めることができる。したがって,①有機化合物の窒素原子をメチル化する場合,炭酸ジメチルがメチル化剤の候補となること,②メチル化剤として炭酸ジメチルを使用する場合には,弱塩基である炭酸カリウムと相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行うことが,当業者に周知であったと認められる。また,この周知のメチル化方法は,ヨウ化メチル(CHI)のような生理学的に好ましくない薬剤や水素ナトリウム(NaH)のような高価な塩基を用いた方法の問題点(安全上の問題,副生成物の廃棄の問題,経済上の問題)を解決する可能性がある方法としても当業者に認識されていたと認められる。
 以上の検討を総合すると,当業者にとって,引用発明のメチル化方法を,周知の方法であった安全性の高い炭酸ジメチルを用いる上記の方法を試してみることには動機付けがあるといえる。そして,本願発明と引用発明の相違点・・・は,その文言からして,炭酸カリウム(KCO),臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)又はそれら両者のいずれかの存在を必須とするが,その他の塩基や相間移動触媒が存在することを妨げないものと解されるから,弱塩基である炭酸カリウムを用いる上記周知の方法は,これに含まれると認められる。

(2)刊行物2ないし4のN-メチル化される化合物・・をみると,・・・窒素と他の原子の結合状態などを含めて構造自体が相当程度異なっていること,これらの化合物を含めて「Ph-NH-」という化学構造を有する化合物を一群として取り扱う分類方法があると認めるに足りる証拠もないことなどからすれば,これらの化合物には「Ph-NH-」という化学構造の共通性があると認定した上で周知技術を引用発明に組み合わせることが容易であるとした本件審決の理由を採用することはできない。
 しかしながら,・・・そもそも有機化合物の窒素原子をメチル化する場合に,メチル化剤として炭酸ジメチルを用い,炭酸カリウム(KCO)と相間移動触媒の存在下,周囲圧で反応を行うというメチル化の方法が当業者にとって周知であって,それを引用発明のメチル化方法と置換することが当業者にとって容易に想到し得ると認められるのであるから,本件審決の上記誤りは,前記容易想到性の判断を左右しない。
 したがって,相違点に係る本願発明の構成は,当業者が刊行物1の記載及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものである。

(玉腰 紀子)

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